逆光の中に色鮮やかな夢を見る、子どもみたいな私をどうか笑わないで - 1/4

 
 

   【1】

 死にたくないと心臓が叫ぶ。己だけでも生き残ろうと、今にも胸を突き破って逃げ出そうとしていた。
 体が痛い。全身の細胞という細胞が、千千に砕け散るような激痛が私を襲った。私の中の何かが、私から離れていく感覚。離れたその何かが、あのアラガミに吸収されていく感覚。
 今まさに、私はヤツに「喰われて」いる。それを悟ったのはそのあたりだった。同時に、どこから出ているのか、自分でも分からない断末魔が戦場を裂いた。
 ――墜落。
 地に落ちる。かろうじてまだ神機は握りしめていた。けれどそれも長くは持たない。
 ――波状。
 視界が歪む。力が抜ける。不条理に抗うための術を手放した。弛緩した四肢に、私の信号は届かない。ヤツの咆哮に皮膚が痺れる。
 ――追撃。
 迫り来るのは腕か、足か。そんな見分けもつかないほど、意識は土に沈みかけていた。口に入った砂粒を吐き出すことすら叶わない。
 その機能の殆どを失った私の感覚器官だが、なにか大きな存在が私を押し潰そうとしていることだけは理解した。このままだとちょうど私の頭は、潰され、砕けて、運が悪ければ胴体から離れてしまうだろう。そんな最悪の最期を想像することだけは出来る自分に辟易した。もっと、他に。もっとほかにかんがえるべきことがあるはずなのに。
「ここ、まで……か……」
 どこからか、私の名前を叫ぶ声が聞こえる。ひとつ、ふたつ、みっつ。どれも聞きなれた人のものだった。
 轟音に混ざる足音を聞いて、それきり世界は閉じられた。私に見えるのはもう、暗闇だけだ。