白銀の氷の上に立っている。薄ら氷のようなものだ。轟は、今にも割れてしまいそうな氷の上で、二本の足を使って立っている。……ただの比喩表現だ。しかし、あながち間違いでもない。
春になってから、じわりじわりとそれを溶かされている。何にだと聞かれても、何かに、としか答えられない。しかし轟は、その状況を恐ろしいと思った。
氷の足場は、轟の人生だった。彼がこつこつと重ねてきた人生であり、少しずつ広げてきた世界だった。けれども、そうして出来た世界はあまりにも小さかった。そして一つの目的のために重ねられた轟の人生は、驚くほどに薄っぺらいものだったのだ。春は、それを自覚して終わった。
このまま全て消えてなくなってしまうのだろうか。そんな心配をしたこともある。けれども轟の懸念は杞憂に終わった。
夏の日差しは、それを溶かすには至らなかったのだ。