「緑谷、好きだ、愛してる」
「はいダメ。それじゃあただの告白だよ轟くん」
「なんでだ」
しゅんと肩を落とす轟くんに、騙されてはいけない。このやりとり、かれこれ一時間も続いてるんだよ。心を鬼にしないといつまで経っても終わらない気がしてくるのも当然だと思うんだよね。
「CM用のセリフなんだろ! だめ! ってか僕の名前を入れてるとこもダメ!」
「自分で考えてこいって言われたから」
「それを全国に発信するつもりなら今すぐ考え直して」
「なんでだ」
「なんででも!」
「プロポーズするなら緑谷しかいないのに、他のやつへのプロポーズの言葉を考えろって言うのか。緑谷はひどいやつだ……」
「~~~~ッそんな目で見てもダメなものはダメ! あとさりげなく僕のせいにしないで! そもそもさっきのはただの告白だっただろ!」
「ただの告白じゃねえ。毎晩緑谷に言おうと思ってる告白だ」
「ほらやっぱり告白じゃないか……ん? 毎晩?」
「毎晩」
「わかった、ちょっとおちつこう」
ふう、と大きく深呼吸をする。轟くんの言葉が上手く飲み込めない。いや、言葉の意味は分かるよ、さすがに。
……心臓がうるさい。なにがどうしてこうなった。僕はただ、轟くんの仕事の相談に乗っていただけだったはずなのに。ああもう、顔も熱いし、なんか、轟くんのことちゃんと見れないし……ってちょっと待って、待ってって! 近づいてこないで僕いますごくヘンな顔してるから!!
「緑谷」
「ひゃい」
みっともない顔を隠すために覆った両手を、片方ずつゆっくりと外される。僕の顔が轟くんの前にさらされた。悔しい……さっきまであんなにふざけ倒していたはずの人が、こんなにかっこいいなんてズルい……。僕、泣きそうな顔してると思うけどだいじょうぶかな……。
「毎朝緑谷のおはようが聞きたい」
これが俺のプロポーズだ。そう言いながら優しく微笑まれる。それが僕の独身生活最後の記憶だった。
(20190613)