カミュへ。
カミュが幸せな夢の世界に行けるという寝台列車の取材に行ってきて、そのあとに倒れていた君を見つけたときは本当に驚きました。
この手紙と一緒に、看護師さんには本を一冊、渡してあります。それはカミュの目が醒めなくなってから僕が書き続けた日記です。僕がカミュと一緒に過ごした、僕の大切な記憶です。カミュと記憶を共有したいので、よかったら入院生活のひまつぶしにでも読んでくれたら嬉しいな。
話は変わります。もう聞いたかもしれないけれど、最初に書いたとおり、君は自宅で倒れていたんだ。慌てて救急車を呼んだんだけれど、検査をしてもなにも異常はなくて。数日で目が覚めるでしょうと先生から言われて……。それでも君は目を開けなかった。
原因はきっとあの取材だろうと僕は思ったよ。だから僕はこの五年間、君の目を覚ます手がかりを探し続けていたんだ。それを、この手紙を書く三日前に、ようやく見つけることができた。けれど三日間、僕は怖くて悩んでしまったんだ。
すぐに決断出来なくてごめんね。もう伝えられる機会もないと思うから、ここで謝っておきます。
僕はこの手紙を預けて、君の元へ行こうと思う。僕のこの決断を、カミュはきっと怒るよね。でも僕がカミュのことを助けたいという思いは、恐怖にだって負けないつもりだよ。だからねカミュ。僕は絶対にカミュのことを目覚めさせてみせる。君が目を覚まさないことの方が、僕にとっては何倍も恐ろしいことなんだ。
もし夢のなかで会えたなら、僕の形見として君と交換した指輪を渡したいな。さすがに夢だから、そんなことは難しいかもしれないけれどね。
ではこのへんで。君の元へ行く方法については書きません。だってカミュは、僕のために必ず来てくれるでしょう? 自信を持って言えるよ、自惚れなんかじゃないってこともね。またもし出会えることがあったなら、そのときはきっともっと、お互いに幸せな世界のはずだよ。それじゃあね、カミュ。大好きだよ。
僕のことは忘れて、幸せになって。