「読めました?」
「……は、い」
「カミュさん!? どこか痛みますか!?」
突然涙をこぼしたオレに、看護師がうろたえる。オレは「いいえ」とだけ答えて、心配する彼女をよそに泣き続けた。
なんてバカなことをしてしまったのだろう。五年越しの後悔が押し寄せてきて、悪夢から目覚めたオレのちっぽけな安心感を踏み潰した。そうして残った無慈悲な事実が、オレに現実を突き付けてくる。
オレはイレブンに救われたのだ。
あのとき、こうなることがわかっていれば。夢の中で気づいていれば、こんなことにはならなかったのではないか。
「消灯の時間にまた、来ますね」
オレの心情を察したのか、手紙を仕舞った看護師はそれだけ言い残して部屋を出ていった。
バカだ。イレブンは大バカだ。いつだって人の事ばかりで、自分の未来には目も向けやしない。こっちのことなんてお見通しで、イレブンのために何もさせちゃくれない。
オレは首を右にまわした。長らく動かしていなくて、軋むような感覚がしたが、なんとかして横を向く。取り込まれる光をまだうまく調節できない目が、視界の中でひときわ光っている小さな何かを捉えた。
それは重なりあった二つの指輪だった。ひとつはオレの。もうひとつは夢の中でイレブンに渡されたものとそっくりだ。
オレはなんとなく確信していた。そっくりに見えるそれは、きっとイレブンの指輪だと。あれはオレが寝台列車の取材に行く、一週間前に渡したものだ。イレブンとオレと、二人で助け合って生きていこうと誓いを立てた象徴だ。
あの夢の列車のなかで出会ったイレブンは、本物だったということを。そして、もうあの手に触れることは出来ないのだということを、まざまざと見せつけられる。
行き場のない無力感だけが、その場に居座り続けていた。