「結局、ユウゴさんは師匠の何なんですか?」
「……え?」
聞いて回るだけでは飽きたらず、僕は師匠に直接尋ねてしまいました。
「ユウゴが、私の、何かって……?」
「はい。彼は師匠の幼馴染みなんですよね」
「そうだけど……」
それが何かあるのかと言った顔で師匠が言いました。クリサンセマムの皆さんが言うように、やはりユウゴさんとはただの幼馴染みなのでしょうか。
「ユウゴが、私にとってどういう存在なのか。そんな説明で、いい?」
かなり悩んでいたのでしょうか。随分と長い間を置いて、師匠はそう言いました。具体的に言うなら、神機一台整備出来てしまうほどの時間です。その間僕は何をしていたのかと言いますと、師匠が訓練用のアラガミに対して攻撃を繰り出す一挙一動を観察していました。もちろん、自分のものにするためです。今日の任務と訓練は終了し、他の弟子たちは既に自室へと戻っていましたが、僕のために、と僕の使う神機と同じ型を使って師匠が訓練をしてくれているのです。なんて出来た人なんだ……! と感動せざるを得ません。なんだか色々な人に聞き回りましたが、どう考えても僕が感じている師匠への好意は、ただの憧れでしかないのでしょう。同僚の言うことが初めて外れました。これもあとで同僚に報告しておくことにしましょう。
話を戻します。師匠から直接語られる、ユウゴさんと言う人に僕は興味津々でした。
「ユウゴはね、私と一緒にペニーウォートでAGEになった人。理不尽を一緒に乗り越えてきた、相棒みたいな人だから。ただの幼馴染み、じゃ、ないと思う。じゃあ何なのって言われたら、それはうまく言えないんだけれど……私のことをよく見てくれているし、なんだかんだで心配されていることは分かるの。家族、でもあるし、戦友、でもある。どれでもあるし、どれでもないような気がして……。結局、ユウゴが私にとってどういう存在なのか、名前がないの。名前なんて、なくてもいいのだけれど。――フィムのことは知ってる? みんなは、私のことを母親みたいだって言うけれど、私は母親がどんな人間か分からなくて、初めは、とても混乱したの。でもフィムは私についてくるようになって……。どうしたらいいか分からなかった私を支えてくれたのは、ユウゴだった。だから、ユウゴは私にとってかけがえのない人、なのは間違いないんだけれど……。みんながユウゴのことを父親みたいだと言うから、なんだかこう、意識してしまって……ごめんなさい、説明にならなくて……」
師匠が話し終えた時点で、僕はまともな返事が出来るような状態ではありませんでした。だんだんと顔が赤くなっていく師匠に、なんだか僕も気恥ずかしくなってきてしまったのです。これは、これは、恋をしている人の表情に違いありません。さすがの僕でもそれを察することくらいは出来ました。
「あ、いえ、そんなことは……! し、師匠にとって、ユウゴさんは大切な人なんですね! よく分かりました!」
釣られて顔を赤くしてしまった僕も、挙動不審になってしまいました。うわずった声で感想を伝えると、師匠は無言で頷いて、再び訓練を開始したのです。その動きは先程よりも少し乱れていて、師匠も人の子なのだということを教えられているようでした。
「おい二人とも、そろそろ飯にしろよ。エイミーが困ってる」
「あ、ユウゴ」
扉が開いて、空気が少し入れ替わったのが分かりました。僕と師匠は、反射的にそちらに顔を向けました。師匠が彼の名前を呼ぶ前に、僕はその人のことが分かりました。そこにいたのは、直前まで話題にしていたユウゴさんだったのです。どうやら、食事の時間になっても現れない僕たちを探しにきたようでした。
「訓練もいいが、休息も大事だと教えるのもお前の仕事だろ? 教える側が休まないでどうするんだよ……」
ユウゴさんは呆れた声で師匠に話しかけています。けれど、視線は言外に僕に対して何かを訴えていました。それはまるで、一種の敵意のようなものでした。早くこの場を離れなければいけない。そんな焦燥感に襲われたのです。大型のアラガミと対峙したときとは比にもならないような、鋭く、震え上がってしまうような視線が僕をじっと見つめていました。これはマズい。僕の本能が警鐘を鳴らしています。一秒でも早く、この場を離脱しろと叫んでいました。
「師匠! 本日は遅くまでご指導いただきありがとうございました! それでは、僕はこれで! すみません!」
黒い瞳に刺された僕は、リカルドさんに言われた言葉を思い出しながら、逃げるようにその場をあとにしたのです。
(20181230)