お墓をたてよう。
彼女がそう言ったとき、ユウゴは反対しなかった。幼い自分たちの世話をしてくれた大人。自分たちを救ってくれた仲間。自分たちを慕ってくれた子ども。――救えなかったみんな。記憶からは誰一人として消えてはいない。けれど、彼らが生きていたのだという証は、もうユウゴの腕にしか残っていないのだった。
生きた証は、もう充分に刻んだ。けれど自分たちがここまでやってこられたのは決して、自分とユウゴと、今いる仲間たちだけの力ではないのだと、彼女は言った。そんな彼らが生きた証である墓を建てたいと言う幼なじみの言葉に、ユウゴは何の異論もなかった。
「早いほうがいい。ペニーウォートのみんなも呼ぼう」
手分けして資材を集めるんだ。ユウゴの行動に迷いはなかった。むしろ提案した彼女の方が戸惑っているようだった。ペニーウォートのAGEとしてまとまったお墓を、と提案したつもりが個々人の墓を建てることになったからである。
「生きた証、だろ? みんなの最期の場所を回って、そこに小さな墓を建てよう。俺たちならそれが出来る」
まあ各地を廻れるかはイルダに相談するんだが、とユウゴは付け足した。早く俺たちもミナトを作って、灰域踏破船を手にできればいいんだがな。苦笑いをするユウゴに「ユウゴはよくがんばってる」と彼女は言った。
「……最近、話を聞いてやれなくて悪いな」
「そんなことない。忙しいのに、こんなことを言ってごめんなさい」
「おまえは何にも悪くない。先ばかり見ている俺を振り向かせてくれるのは、いつもお前だけだよ」
先へ、先へ。ユウゴはずっと未来を見続けていた。彼女の提案は、そんなユウゴを頓悟させるのに充分な引力を持っていたのである。生き急ぐユウゴを引き留めるのが彼女の役目であった。代わりに、過去に居座り続ける彼女の手を引くのがユウゴの役目でもある。
「花のこともイルダに聞いてみよう。あとは……墓に入れる体はねえし、このチョーカーだって全員分もないからな。手紙でも入れるか」
「字、書けないから。それは出来ない」
「練習だ練習。大丈夫、教えてやるよ」
「ん、がんばる」
意気込みを見せる純粋な彼女を見て、部屋に誘う口実にしたことにユウゴは少しばかり罪悪感を抱いた。
空の上から、忘れもしないかつての仲間たちの笑い声が聞こえた気がする。
(20190204)