深夜。遠慮なく剥ぎ取られた布団のせいで、俺の皮膚が収縮した。反射的に身を震わせて、引き離された布団との距離を縮めようと手探りでその行方を捜す。犯人の顔を見てやろうと暗闇向かって目を凝らした。
「……やっぱユウゴか」
こんなことをする人間はユウゴしかいない。よ、と片手を軽く上げたユウゴに、俺は悪態を吐いた。
「俺、寝てたんだけど」ぶっきらぼうに話すと「まあそんな怒るなって」と言いながら俺のベッドに潜り込んできたユウゴに押しのけられる。寒いと訴えれば今度はきちんと布団を掛けられた。ベッドは、男二人が収まるには小さすぎる。
「いいもの、持ってきたんだ」
闇に慣れた目が、ようやくユウゴの表情を読み取ることに成功した。したり顔で話すユウゴが手に持っている、数個の小さなコインに視線を寄せる。俺の視線の行き先に気付いたユウゴが、そのうちのひとつをつまみ上げて俺の目下にぶら下げた。
コイン一枚分の大きさのそれを受け取ると、薄さの割にはそこそこ重いような気がした。よくよく見るとまさしく、今の通貨が普及する前に使用されていたコインと似たようなもので、けれど金属かと言われれば決してそうではない重量感が手の平にある。ほのかに甘い匂いが漂うそれをじっと見つめた。
情報量の多さに、寝起きの俺は混乱した。一周回って冷静になる。神経が無駄に研ぎ澄まされて、誰かのおとなしい寝息を耳が拾ってしまう始末だ。
「これは?」
冷静になった絶賛混乱中の思考に、僅かに残った正気の部分が出した結論はなんとも言えない貧相なものだった。
「昼間助けたキャラバンの人間からもらったやつさ。これだけしかないんだ、こっそり俺たちで食べちまおう。好きだろ――」
――チョコレート。と言葉が続かなければ、俺はなんて答えればいいのか分からなかったかもしれない。一拍、どきりと心臓が跳ねた。
「まあ、割と好きだよ。ジークやキースには内緒だな」
「フィムにも内緒だ」
滅多に見せない無邪気な笑みを浮かべるユウゴに釣られて、俺も思わず笑みを零す。クリサンセマムのミナトで見たのだったか。ユウゴのその顔は、いたずらが成功した子どもみたいだった。ひそひそと話すのは随分と久しぶりで、口に放り込んだチョコレートの痺れるような甘さは胸を焦がす。
二人だけの秘密がまた増えた。なんだかそれが幸せで。その甘い幸せは、宝石のように美しかった。
(20190301)