クロムのようになりたかった。強くて、かっこよくて、みんなを引っ張っていけるカリスマ性を持つ、クロムみたいに。社長になるということは、きっとそういうことなんだと思ったんだ。
クロムは俺の憧れだった。どんな敵にも背を向けず、足手まといな素人の俺にもしっかりと戦い方を教えてくれた。イドラスフィアでカルネージフォームとなって戦う、あの瞬間だけ、俺とクロムは紛れもなく一心同体だったと言える。お互いの考えになんの隔たりもなく、意識しなくても体は動いた。目が覚めたみたいに神経が冴え渡って、すべてがクロムと混ざりあって、クロムと俺、二人分の感覚が俺の体を動かしていた。
クロムは、俺の半身だった。だから、いなくなった時の喪失感はどうやっても埋めようがなかった。それをむりやり塞ごうとした結果が、ツバサと同じだ。大学の授業が終わってから、息つく間もなく電車で事務所に向かう。それから夜まで仕事とその勉強をして、帰ってからは大学の勉強をする。人付き合いを最小限に抑えて、特にフォルトナのみんなとはあまり仕事以外の話をしなくなった。共通の話題を探すと、どうしてもミラージュやそれに関連した話になってしまうからだった。
俺は、クロムの話をすることを避けていた。クロムと過ごした日々のことを思い出すと、もう一度会いたいと思わずにはいられなかった。それはとても……うん、とてもじゃないけど耐えられるようなつらさじゃない。自分でもよく分からないけれど、そんなにつらいなら思い出すのはしばらくやめよう。そう結論を出すのに時間はかからなかった。
あのとき、行かないでほしいと言えなかったことをずっと後悔している。それを伝えることで、クロムに心配をかけてしまうかもしれないと考えた。それを伝えることで、大人になれと諭されたら立ち直れないと思った。だから言えなかった。クロムがそんなこと言うわけないって、分かっていたのに言えなかったんだ。
蒼井樹は一人で生きていかなくちゃならない。当たり前のことなのに、とても難しいことのように思えた。自分という人間は、クロムの助けによって完成したのに、これからどうやって変化していけばいい? そんなことばかり考えていた。そしていつしか、自分でも気が付かないうちに、俺はクロムになりたいと思っていた。